福井県コンクリート診断士会

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コンクリート診断士を取得して / 福井県コンクリート診断士会 正会員 栗原 勇樹

 私は、PC (プレストレストコンクリート) 専門会社に入社し、主に新設PC橋の設計や施工に携わってきました。入社から10年ほど経過した後、 開発部門に異動になり、開発業務のほかに非破壊調査によるポストテンションPC橋のグラウト充填状況の調査や経年劣化によるコンクリート橋の調査なども行ってきました。 コンクリート診断士はその間に受験し何度か試みた後、2014年度に取得しました。
 コンクリート診断士の取得後、福井県コンクリート診断士会に入会しました。本診断士会は設立19年目となり会員数も150人を超えております。 活動として毎年6~7回ほどの研修会が開催され、私自身ここで様々な知見や経験を得ることができ、よい研鑽の場、刺激の場となっています。5年ほど前の研修会においては診断事例を発表する機会があり、 凍結防止剤散布による塩害劣化を受けたポストテンションPC桁橋のグラウトの充填状況とPC鋼材の破断の有無について、非破壊調査を実施した成果を発表させていただきました。 発表や意見交換を通じて他の方の診断事例を学び知見を広めるだけでなく、 診断士同士の交流を図ることもできるため、コンクリート診断士を取得された際には、各エリアのコンクリート診断士会への入会と活動参加をお勧めいたします。
 近年では、県内の建設コンサルタントと連携して床版や橋梁の調査診断や補修補強の提案などを行う機会が増えてきました。やはり、既存のインフラを守っていくうえで、「コンクリート診断士」の役割は大きいと改めて感じております。
 これからも、コンクリート診断士として調査などを通じて既設コンクリート構造物の劣化や損傷に対してよい提案ができるよう、診断士会の活動や最新の調査診断技術の知見を広めるなど、自己研鑽に励み診断能力の向上に努めたいと思います。

(令和5年3月 コンクリート工学誌 コンクリート診断士のページ)

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コンクリートに携わって25年 / 福井県コンクリート診断士会 会長 山川 博樹

 昭和47年3月、私は福井県大野市という、冬場は非常に雪深い田舎町で産声を上げ、高校卒業までの期間、大自然に囲まれ育ちました。小学4年生の冬、北陸地方は記録的な大雪(56豪雪)の被害を受け、大野市も一晩で車が動けないほどの積雪となりました。自衛隊からの災害派遣もありましたが、地元の建設業に携わる方々(私の父も含む)も、昼夜を問わず除雪作業に追われていたことを今でも鮮明に覚えています。今思えば、この時に、災害時には復旧という面で、社会に貢献することが出来る、「土木」という業界への憧れのようなものが芽生えたのかもしれません。その後、市内の高校へ進学したのですが、その時「大野の人間は、世間の風が冷たいのか熱いのかも知らない。井の中の蛙大海を知らず。一度は都会に出てみるべき。」と担任の先生に言われたことも引き金となり、平成2年4月、近畿大学理工学部土木工学科に入学しました。入学は、現在教授をされている東山先生と同じ年ですが、卒業は私が一年あと(中野ゼミ卒)。今となれば、良い思い出です。
 卒業後は、学生時代の勉強の中で最も苦手であった、コンクリートや鉄筋コンクリートの知識を必要とする、コンクリート二次製品メーカー(ホクコン)に就職。上司や先輩方に、「大学で何を学んだの?」などと叱責を頂きながら、製品の設計や開発に3年携わりました。その後、「これからコンクリートは維持管理が重要になる時代に突入する」との考えが社内で盛り上がりを見せ、グループ会社として(株)M・T技研(設立時は違う社名)が設立。コンクリート構造物全般の調査・診断を行う会社に転籍し、現在もその会社で調査・診断の業務に携わっています。
 このように、世間的にも「維持管理」の重要性が少しずつ認知され始めた頃、日本コンクリート工学会が平成13年に「コンクリート診断士」という資格の認定制度を導入。福井県では、全国に先立ち平成16年に「福井県コンクリート診断士会」が設立。私は設立当初より会に属し、設立15年目を迎えた平成30年より、第2代の会長を務めさせていただいています。福井県コンクリート診断士会では、①会員の資質向上のための研修事業、②地元自治体への技術支援や連携、③他団体との連携、④診断士受験者支援、⑤広報事業、を主たる活動内容としています。特に研修事業では、大学の先生や、公的機関やゼネコン等の研究者を講師として招聘し、最新の維持管理に関する動向や技術を学ぶことで、会員の技術力向上を図ることに注力し、研修会や現場見学会を年に8回以上実施しています。こういった活動を地道に継続してきた結果、また地理的にも様々な劣化(塩害、ASR、凍害)が生じる地域であることなども相まって、現在では東京に次ぐ全国2番目の規模の診断士会となることが出来ました。今後も、診断士会を発展させることによって、社会貢献、地域貢献が出来るよう、微力ながら会を引っ張っていければと考えています。
 また、診断士会の会長としてのみならず、コンクリートに係る一人の技術者として、コンクリート構造物の維持管理という分野において、社会貢献が出来るよう努力するとともに、その結果が社の業績向上につながるような活動を続けていこうと考えています。

(令和元年7月 近畿大学土木会通信)

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この豪雪に思うこと / 福井県コンクリート診断士会 会長 石川 裕夏

 37年ぶりに嶺北を襲った今回の大雪は、本当に甚大な被害をもたらすものだった。これまでの雪でさえ不便を感じていた関西出身の私にとっては、まさに別次元の降雪で、国道8号線の1000台を超える車の立ち往生や、徒歩でしか移動がままならならず、やっとの思いでたどりついたスーパーには買うものがない。そんな状況は、過去に私が経験した阪神大震災時の人々の様子と重なり合うようであった。
 生活道路の大掛かりな除雪が進まず、もどかしい日が続いてはいたが、それでも昼夜を問わず作業にあたって下さった自衛隊、建設業者、地域の方々の皆さんには本当に感謝するばかりである。除雪にあたっていたある高齢の重機オペレーターの方は、「本当にしんどいが、使命感と責任感だけで、寝る間を惜しんで除雪を続けている。」とおっしゃられていた。折からの建設業者の減少に加え、少ない雪に慣れてしまった福井では、除雪のできるオペレーターの確保は非常に難しくなっている。足りない人数で休む間もなく、みなヘトヘトになりながらも、極寒の深夜、重機に乗って除雪をしてくださる姿には、本当に胸が熱くなった。建設業に対しては、とかくネガティブなイメージがついて回りがちだが、災害時、最前線で地域を守るのは、その地域にいる建設業者なのである。そのことを、今回、私自身も一生懸命作業にあたって下さる作業員の方々を目の当たりにして、強く再認識した。東日本大震災以来、声高に叫ばれてきたのが、「災害に強いまちづくり」である。これを進めるうえで、地域を守り、復興を助ける建設業者を育てる仕組みが今まさに必要なのではないかと思う。
 このように、雪のあいだ、とても大変な目にあってはいたが、一方で今回あらためて感じることができたのが、近所同士、すれ違う人同士の優しさであった。プライバシー重視の昨今は、日常的には深く立ち入らずに軽い挨拶程度ですませることが大半であるが、この大雪では、そこに居合わせた人同士が協力し合って除雪をしたり、道で立ち往生する通りすがりの車を押し合ったりすることが何度もあった。私自身も車を引っ張ってもらったり、押しに行ったりして、一緒に掛け声をかけあって脱出できたときには、よかった、よかったと喜び合った。そのときには不思議な一体感を感じて、心が軽くなるようだった。この雪をとおして深まった、ご近所とのつながりは、大雪がもたらしてくれた思わぬプレゼントであったなと、あらためて思う。
 私にとって、福井の冬の厳しさと福井の人々の温かさを今一度実感する、18年目の冬であった。

(平成30年3月 福井法人会ニュース)

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人のためのコンクリート / 福井県コンクリート診断士会 会長 石川 裕夏

 東日本大震災が発生して、はや半年が経過した。今回の震災では、甚大な被害がもたらされ、自然の脅威と人間の無力さをまざまざと見せつけられた気がする。さらに、私たちの住む日本が世界に類をみない災害国であることも、あらためて認識させられた。災害は地震だけに限らず、我が国においては、台風や集中豪雨、火山活動など、様々な災害が待ち受けている。震災からの一日も早い復旧復興を全力で進めると同時に、今後の来るべき災害に備えることが必要である。
 しかしながら、我が国での巨大地震等の災害に対する備えに目を向けてみると、ここ数年は、「コンクリートから人へ」のスローガンのもと、防災上、必要不可欠なインフラ整備さえ、まともに行われていない。防災力は非常に心もとない状況にある。防災事業の効果は平常時には意識されにくいため、場合によっては“無駄”とさえ判断されてしまうが、はたして災害有事への備えを“無駄”と片付けてしまってよいのだろうか。学校や病院、橋などの耐震化、海岸の堤防強化や河川の護岸整備、災害に強い交通ネットワークの整備など、やるべきことが山積している。国土や地域の安全・安心なくして、豊かなくらしはありえない。自然災害の発生そのものを止めることができない以上、我々自身が備える以外にないのである。
 今回の地震による津波は、防波堤や防潮堤をも破壊するほど巨大なものであり、その被害を完全に防ぐことは不可能であった。しかし、その被害を軽減する「減災効果」は間違いなく認められている。岩手県釜石港の防波堤は、市街地への津波の浸水を6分遅らせることができたほか、浸水高さを約4割低減できたのである。
 災害時の被害を可能な限り軽減して人の命を守るコンクリート、すなわち「人のためのコンクリート」は必要不可欠である。大震災を経験した日本こそが世界に先駆けて災害に強い国となれるように、私もコンクリート技術に携わる一人としてその一翼を担いたいと思う。亡くなられた尊い命を無駄にしないためにも、防災に果たすコンクリートの役割を今一度、見直してみるべきではないだろうか。

(平成23年9月 福井法人会ニュース)

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たゆまぬ維持管理技術の研さん / 福井県コンクリート診断士会 幹事 青山 宏昭

 私は、現在PCa製品の製造会社で開発や品質管理業務に携わっています。以前からコンクリート診断士という資格の存在は知っていましたが、コンクリートのことは理解しているつもりで取得の必要性は感じていませんでした。ところが、数年前、弊社製構造物の変状について、施主様からコンクリート診断士の所見を求められ、もどかしく感じると同時に本資格の重要性を認識しました。
 それが契機となり本資格取得に邁進した結果、幸い合格できました。この期間を通して、維持管理の知識不足を痛感しましたが、濃密な日々を過ごし成長できたと考えています。
 近年我が国では、厳しい財政状況の中、アセットマネジメントをはじめとするLCC縮減への取り組みが強く求められています。LCC縮減に不可欠となるコンクリート構造物の長寿命化を図るには、維持管理技術は極めて重要な役割を担っています。私も入会させて頂いている「コンクリート技術支援機構(ASCoT)」や「福井県コンクリート診断士会」などを通して技術研さんに励み、更なる長寿命化技術の開発に取り組んでいく所存です。

(平成22年3月 コンクリート工学誌 コンクリート診断士のページ)

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コンクリートシンダンシ / 福井県コンクリート診断士会 会長 石川 裕夏

 日本の文化から生まれた世界共通語、「モッタイナイ」。コンクリート構造物に対しても、この「モッタイナイ」精神で向き合わなければならない時代となった。
 二十世紀は、「鉄とコンクリートの世紀」とまで言われ、膨大な量のコンクリート構造物を生み出す世紀であった。これに対して、環境保全が喫緊の課題となった二十一世紀は、老朽化がすすむコンクリート構造物を無駄なく、適切に維持管理していかなければならない時代である。今後、コンクリート診断士の役割がますます重要となるであろう。
 福井県では、「福井県コンクリート診断士会」を設立し、4年半が過ぎた。この間の活動を通じて、コンクリート診断士の存在は広く知られるようになり、コンクリート診断士としての業務の依頼も出てくるようになった。この診断士会には、官公庁、建設会社、建設コンサルタント、コンクリート製造業などの幅広い業種の技術者が集まっている。私自身は、この会を通じて、素晴らしい仲間と出会え、異業種の方々と互いに交流を深めることで、技術を学ぶだけでなく、技術者に必要な心構えや姿勢をも学ぶことができた。
 我われ、コンクリート診断士は、今後さらなる研鑽に努め、二十一世紀を支える技術者の一員として、社会に役立ち続けたい。そして、いつの日か、日本だけでなく海外にまで活躍の場を広げ、「コンクリートシンダンシ」という世界共通語が生まれるくらいの活躍ができればと思う。

(平成20年11月3日 セメント新聞 コラム”あんぐる” 最終回)

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日本的感性による技術 / 福井県コンクリート診断士会 会長 石川 裕夏

 世界的にみて、自然災害が多いとされる日本。古来より、日本人は、台風や洪水、地震などの自然災害と常に隣り合わせで生活をしてきた。このため、日本人は、「自然にはかなわない」といった畏敬の念を持って自然と向き合っている。建物を建てる際には地鎮祭を施し、トンネルが貫通した際には神輿を担いで練り歩く。この姿は、自然を恐れ崇める、いかにも日本的な考えの象徴であろう。
 その一方で、欧米では「自然は人間がコントロールするもの」という考え方で、自然は人間が制御できる対象として扱っている。欧米の庭園が、幾何学的で、いかにも人工的な形状をしているのもその表れといえる。
 日本の自然観と欧米の自然観、それぞれ大きく異なるが、日本人には、自然と長年向き合ってきたなかで育まれた独特の感性が存在する。この感性こそが、日本の自然科学を生み出し、建築・土木技術を発展させてきた。また同時に、自然に対する無力感が謙虚さや道徳観を生み、技術者の倫理観をも培ってきたのである。
 しかし、それが今、大きく変わろうとしている。耐震強度の偽装問題をはじめとする技術者倫理を逸脱した問題が数多く発生している。技術がいつのまにやら「”偽”術」となり、日本人が持つべきはずの倫理観も「倫”離”観」となってしまった。日本の技術に対する国際的な信用も揺らぎ始めている。
 今こそ、日本人としての原点に立ち返り、「日本的感性」を生かした技術の再構築が必要ではなかろうか。

(平成20年9月29日 セメント新聞 コラム”あんぐる” 第3回)

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技術の価値を伝えよう! / 福井県コンクリート診断士会 会長 石川 裕夏

 「科学技術立国ニッポン」。高度経済成長期以降、日本はこう呼ばれ、科学技術を中心に目覚ましい発展を遂げてきた。今、この日本において、理系離れの問題が深刻化している。正確に言うと、生じているのは、理系離れではなく、工学系離れである。医学系や歯学系の志望者はむしろ増加しており、工学系のみが激減している状況にある。これは、工学系技術者の社会的地位が他の職種に比べて低いことに一因があるとされている。
 技術者の社会的地位を向上させるためには、まず何よりも、その技術の価値を社会に知ってもらわなければならない。しかしながら、現状は、「技術者が係る業務をコツコツと誠実に行い続けることで、いずれは、その価値を社会が認めてくれるであろう。」という希望的観測のような考え方に囚われ、技術の価値を社会に発信する努力を怠っているように感じる。よい商品があっても、それを知ってもらわなければ全く評価されないのと同じで、いくら優れた技術があっても、その技術の意義や価値が社会に認知されなければ意味がないのではなかろうか。技術者自らが「技術の価値を伝える努力」を惜しんではならないのである。
 我われ、福井県コンクリート診断士会も、今後、コンクリート構造物の維持管理がますます重要となるなかで、専門技術者としての存在意義を社会に広く伝える努力を続け、その役割を果たしていきたい。
 そして、科学技術立国ニッポンの一翼を担い続けたい。

(平成20年8月25日 セメント新聞 コラム”あんぐる” 第2回)

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歴史は繰り返すのか!? / 福井県コンクリート診断士会 会長 石川 裕夏

 「約200年間にわたって建設した大量の建造物の維持補修が国家財政上の重い負担になって国力の低下を招き、滅亡に追い込まれた国がある。ローマ帝国である。」これは、『コンクリート文明誌(小林一輔氏著)』という著書の冒頭のくだりである。
 いまの日本も、高度経済成長期に建設された橋や建物などのコンクリート構造物が老朽化し、これらの維持補修が急務となっている。「安全」、「安心」な暮らしを持続的にもたらすためには、構造物の維持管理が必要不可欠である。
 しかしながら、構造物の維持管理への国民的関心はいまだ低い。これは、構造物の新設工事に比べて、維持補修は利便性の向上などを直接もたらさず、その効果を実感しにくいためであろう。実際、道路特定財源の見直し問題が生じた際も、新しい道路の話が中心で、既につくられた道路の維持管理の話はあまり議論にならなかった。それだけ、維持管理に対する意識がまだまだ希薄なのである。海外で生じた落橋事故のように、悲劇が起こって初めて維持管理の重要性に気づくということにはならないであろうか。
 維持管理が適切に行われる社会を構築するためには、官公庁などの事業者だけでなく、市民の幅広い理解が欠かせない。我われ、コンクリート診断士は、構造物の維持管理に技術的に携わるだけでなく、維持管理の重要性を市民に広く啓蒙していく努力も必要である。
 ローマの歴史を繰り返すわけにはいかないのである。

(平成20年7月14日 セメント新聞 コラム”あんぐる” 第1回)

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今の私にとってのコンクリート診断士としての取組み / 福井県コンクリート診断士会 正会員 北山 良

 私は、プレストレスト・コンクリート橋梁のメーカーに所属しており、これまで主にプレストレスト・コンクリート構造物の設計・施工を20年近く行ってきました。数年前にメンテナンス関係の部署に異動し、コンクリート構造物の補修・補強や診断の業務を担当するようになりました。特に私がコンクリート構造物の維持管理分野に関心を持つようになったきっかけは、4年前に独立行政法人土木研究所の構造物マネジメント技術チーム(旧コンクリート研究室)で、交流研究員としてコンクリート構造物の耐久性に関する研究(主に塩害)に2年間従事させていただいたことです。コンクリート工学の第一線の研究者である職員の方々や同じくゼネコンやコンサルタントなどから出向されていた技術者の方々と、同じ職場で机をならべてコンクリートに関する様々な問題について探求できたことは、自分にとって大きな刺激になり、貴重な経験となりました。それまでの自分のコンクリートに対する姿勢や考え方が大きく変わりました。「コンクリートにはわかっていないことがまだたくさんあるんだなぁ、もっともっとコンクリートを知らなければならない」と痛感しました。コンクリート診断士の資格取得も、こうした気持ちに端を発したものでした。
 その後、新設橋梁の工事に携わる機会があった際には、建設するコンクリート構造物をいかに永持ちさせるか、ということについてよく考えました。
・供用後、コンクリート構造物がどのように使用され(例えば、冬期の凍結融解剤散布の有無など)、どのような環境で経年変化していくのか(日射がどう当たり、雨水がどう流れ、どの部分が水にさらされるか、凍結融解する部分はあるか、など)。
・コンクリート構造物にとって弱点となるところ、すなわち、劣化因子が侵入しやすいところ(例えば、コンクリート打継ぎ目や界面)の処理は、どうすべきか(例えば、中性化の進行速度が速いと予測される部分には防錆タイプ鋼材を使用しようか、コンクリートの表面に何を施そうか、コンクリート配合を変えようか、など)。
 このように、以前よりもコンクリート構造物の耐久性に留意した姿勢で仕事に取り組むようになりました。ちょっとした工夫や配慮でコンクリート構造物の寿命が永くなるように心がけることは、施工者にとってとても大切な事だと思っています。
 また、高橋脚の橋梁上部の補修業務に携わることもありました。実際の架橋条件から、施工時の苦労を思うと同時に、補修・補強の大変さも実感しました。メンテナンスが難しい構造物ほど、高品質で耐久性のあるものを建設しなければならないと思いました。
 今後の自分自身の課題は、より多くのコンクリート構造物を診ること、これらに対して適切な処置を施していくこと、その後のコンクリート構造物の経時変化を観て、その処置が本当に適切であったかを判断し、さらによい処置をできるように努めることです。そのためには、日々進化するコンクリート構造物の診断技術、補修・補強技術に関する情報を収集し、自分に有用なものを吸収していかなければならないと思っています。
 現在、九州でプレストレスト・コンクリート橋梁の耐震補強工事に従事しています。ああしたい、こうしたいという理想がある反面、時間(工期はもちろん、交通規制などのための施工時間の制限)とコストの面で施工条件が厳しく制約されるという現実に直面しています。与えられた制約条件の中で、最適な処置を施していきたいと思っています。
 最後に、コンクリート診断士講習会のテキストになっている「コンクリート診断技術」の中に私の好きな言葉があります。
 「後世に繋げる貴重なインフラとなるコンクリート構造物を出来るだけ永く健全に保つことにより、資源の節約、環境負荷への低減、社会への貢献となる。」
 微力ながら、少しでも社会への貢献が出来るように、日々努力していきたいと思っております。

(平成19年10月 コンクリート工学誌 コンクリート診断士のページ)

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